「冬と銀河ステーション」詩碑

テキスト

  冬と銀河ステーシヨン

そらにはちりのやうに小鳥がとび
かげらふや青いギリシヤ文字は
せはしく野はらの雪に燃えます
パツセン大街道のひのきからは
凍つたしづくが燦々(さんさん)と降り
銀河ステーシヨンの遠方シグナルも
けさはまつ赤(か)に澱んでゐます
川はどんどん氷(ザエ)を流してゐるのに
みんなは生(なま)ゴムの長靴をはき
狐や犬の毛皮を着て
陶器の露店をひやかしたり
ぶらさがつた章魚(たこ)を品さだめしたりする
あのにぎやかな土沢の冬の市日(いちび)です
(はんの木とまばゆい雲のアルコホル
  あすこにやどりぎの黄金のゴールが
  さめざめとしてひかつてもいい)
あゝ Josef Pasternack の指揮する
この冬の銀河軽便鉄道は
幾重のあえかな氷をくぐり
(でんしんばしらの赤い碍子と松の森)
にせものの金のメタルをぶらさげて
茶いろの瞳をりんと張り
つめたく青らむ天椀の下
うららかな雪の台地を急ぐもの
(窓のガラスの氷の羊歯は
  だんだん白い湯気にかはる)
パツセン大街道のひのきから
しづくは燃えていちめんに降り
はねあがる青い枝や
紅玉やトパースまたいろいろのスペクトルや
もうまるで市場のやうな盛んな取引です
                  宮澤賢治

出典

冬と銀河ステーション」(『春と修羅』)


所在地

花巻市東和町土沢8区60番地 東和総合支所駐車場



碑について

 2006年、「平成の大合併」によって、東和町、石鳥谷町、大迫町が花巻市に併合され、それぞれの地区は新たに「花巻市」の一部として、地域振興に取り組むことになっていきました。各地区が、花巻最大の観光資源と言える「宮沢賢治」との関連にスポットを当てるのも、そのような取り組みの一環なのでしょう。
 旧大迫町では、2007年に旧稗貫郡役所の建物を復元した「『早池峰と賢治』の展示館」が建設されましたし、2008年12月には、旧東和町で地元土沢を舞台とした賢治の作品「冬と銀河ステーション」を刻んだこの詩碑が、もとの町役場である東和総合支所に建立されました。

 じつは下写真のように、「冬と銀河ステーション」のテキストの掲示は、以前から土沢商店街の一角の駐車場にあったのですが、今回それが正式に立派な石碑となったわけです。


 作品では、岩手軽便鉄道に乗っていると思われる作者の目から、「にぎやかな土沢の冬の市日」の様子や、沿線の華やかな冬の景色が描かれます。「銀河ステーション」「銀河軽便鉄道」などの言葉が登場し、童話「銀河鉄道の夜」の発想の萌芽も感じられます。楽しそうで、きらびやかで、きりっと冷えたような硬質の言葉がちりばめられ、まさに賢治らしい雰囲気の作品です。

 下の写真は、昭和初期の「土沢の市日」の様子です(郷土出版社『目で見る花巻・北上・和賀・稗貫の100年』より)。

 チンドン屋なんかも出て、ほんとうににぎやかな雰囲気ですね。

 こんどは下の写真は、2009年5月の「アーツ&クラフト フリーマーケット<土澤>」という催しの際に、土沢商店街が歩行者天国になって、両側にはいろいろな露天が出ているところです。

 

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