「発動機船 第二」詩碑

テキスト

 発動機船 第二  宮沢賢治

船長は一人の手下を従へて
手を腰にあて
たうたうたうたう尖ったくらいラッパを吹く
さっき一点赤いあかりをふってゐた
その崖上の望楼にむかひ
さながら挑戦の姿勢をとって
つゞけて鉛のラッパを吹き
たうたうたうたう

いきなり崖のま下から
一隻伝馬がすべってくる
船長はぴたとラッパをとめ
そこらの水はゆらゆらゆれて
何かをかしな燐光を出し
近づいて来る伝馬には
木ぼりのやうな巨きな人が
十人ちかく乗ってゐる

たちまち船は櫓をおさめ
そこらの波をゆらゆら燃した
たうたうこっちにつきあたる
へさきの二人が両手を添へて
鉛いろした樽を出す
こっちは三人 それをかゝへて甲板にとり
も一つそれをかゝえてとれば
向ふの残りの九人の影は
もうほんものの石彫のやう
じっとうごかず座ってゐた
どこを見るのかわからない
船長は銀貨をわたし
エンヂンはまたぽつぽつ云ふ
沖はいちめんまっ白で
シリウスの上では
一つの氷雪がしづかに溶け
水平線のま上では
乱積雲の一むらが
水の向ふのかなしみを
わづかに甘く咀嚼する

          この詩は、
          大正十四年(一九二五年)一月七日
          三陸地方を訪れた宮沢賢治が
          貨客船羅賀丸で この地から
          宮古に向かった時の三つの作品の
          内の一篇です 五十行の作品ですが
          宮沢清六氏のご承諾をえて
          一部を省略しました
          <発動機船一>は田野畑駅の東側に
          <発動機船三>は田野畑駅に
          詩碑が有ります


出典

発動機船 第二(下書稿)」(『〔春と修羅 第二集補遺〕』)より

所在地

岩手県下閉伊郡田野畑村 島越駅前広場  →地図表示

碑について


 これも、1925年1月の三陸旅行で、発動機船に乗ったときの作品です。
 もうあたりは夜になっているようですが、船から見える陸地は、険しい断崖です。そこに不意に伝馬船が現れて、こっちの船の船長との間で、何かやりとりをします。
 「いったい何があるのか」と、好奇心を持って賢治が見まもっているようすが、伝わってきます。
 ただ、碑文は原作からかなり省略されているために、ちょっと情景がわかりにくいかもしれません。

 碑の上辺は波をかたどってあり、「発動機船」の模型が乗っかっています。

 詩碑は、三陸リアス鉄道の島越駅前にあります。この駅には、「カルボナード島越」という愛称がつけられていました。「カルボナード島」とは、「グスコーブドリの伝記」に出てくる火山島の名前です。(「島」を掛けてあるのですね。)


島越駅の看板

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