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 緊急事態宣言が解除されたとは言え、まだ恐る恐る暮らすような日々が続く、今日この頃です。
アマビエを用いた厚生労働省によるロゴ たとえ科学が発達した現代でも、人間にコントロール困難な今回のコロナ禍に際しては、厚生労働省でさえ右のロゴのように、アマビエなどという呪術的魔除けを用いたりしていますが、近代医学が普及する以前には、こういう超自然的な力に頼ろうとする気持ちは、もっと顕著だったようです。
 民俗学者の畑中章宏さんの「感染症と赤のフォークロア」によれば、古来日本では「赤い色」に疫病の退散や予防の力があると信じられていて、様々な形で赤い物品を使用していたのだということです。

日本の各地で、子どもが痘瘡に罹ったとき、部屋に赤い幔幕まんまくを張り、身の回りのものいっさいを赤色にした。肌着は紅紬・紅木綿でつくり、12日間取り替えることを禁じた。疱瘡に罹ったものだけが赤色を着るのではなく、看病人も赤い衣類を用いた。(畑中章宏「感染症と赤のフォークロア―民俗学者 畑中章宏の語る「疫病芸術論」の試み」より)

 疫病にかかった子供の枕元には、回復を祈って赤紙で作った人形や赤い旗を並べたりもしたということですが、これに関連して賢治の作品で思い浮かぶのは、文語詩「祭日〔二〕」です。

   祭日〔二〕

アナロナビクナビ 睡たく桐咲きて
峡に瘧のやまひつたはる

ナビクナビアリナリ 赤き幡もちて
草の峠を越ゆる母たち

ナリトナリアナロ 御堂のうすあかり
毘沙門像に味噌たてまつる

アナロナビクナビ 踏まるゝ天の邪鬼
四方につゝどり鳴きどよむなり

火の車の歌

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 宮澤賢治ともいろいろ縁のあった詩人の草野心平は、生前に屋台の焼き鳥屋「いわき」をやったり、居酒屋「火の車」を開いたり、賢治とはまた趣の違った、破格の人生を歩んでいます。心平が東京で焼き鳥屋を開店するにあたっては、賢治が「電気ブドウ酒」という一種の合成酒の製法を手紙で伝授したというエピソードも残っています。

「火の車」一日開店

 ところで少し前のことですが、去る3月10日にいわき市の「草野心平記念文学館」において、往年の「居酒屋火の車」を再現した「居酒屋「火の車」一日開店」という催しが開かれました。私も日帰りでのぞいて来たのですが、その際に同館の専門学芸員の小野浩さんが、居酒屋「火の車」のテーマソングとも言うべき「火の車の歌」を、当日の参加者に教えて下さいました。
 素朴でちょっと破れかぶれで、哀愁も漂う感じなのですが、作曲は深井史郎というクラシックの作曲家で、草野心平の「蛙」や「小川の歌」による歌曲も作曲している人です。この人も、「火の車」の常連だったのでしょうか。

 今日はこれを、VOCALOID の Kaito と Mew に歌わせてみました。下がそのMP3ファイルです。クリックしたら再生すると思います。

♪「火の車の歌」(MP3:1.13MB)

 

火の車の歌

 居酒屋「火の車」の場所は、文京区田町28番地で、間口は1間半で奥行きは2間という狭いスペースに、1尺2寸のカウンターとテーブル4つを置いたという店でした。詩人の宗左近は、「かつてこのように格調高く、また、メチャクチャな飲み屋があったろうか。このように度外れの酔客がいただろうか」と書き残しています。

居酒屋「火の車」

 兵庫県三田市の「女声合唱団Stella」から、演奏会の案内をいただきましたので、ご紹介させていただきます。
 来たる1月4日(金)の午後に、三田市総合文化センターにおいて、同合唱団の第7回定期演奏会「Happy New Year Concert」を開催されるのですが、その中で千原英喜作曲の「女声合唱とピアノのための組曲「雨ニモマケズ」」が、取り上げられます。
 全体のプログラムは、次のようになっています。

I シューベルトの合唱曲
   野ばら、子守歌、菩提樹、詩篇23

II 女声合唱のための「トンカ・ジョン」より
   2.泣きにしは、3.爪紅の花、5.なつめ、6.夕焼けとんぼ
   7.月夜の家、8.二重虹、9.言葉
      詩:北原白秋 曲:寺嶋陸也 構成:しままなぶ

III 混声合唱のステージ 信長貴富作品
   「こころようたえ」 詩:一倉宏、「夕焼け」 詩:高田敏子
   「楽譜を開けば野原に風が吹く」 詩:和合亮一

IV 女声合唱とピアノのための組曲「雨ニモマケズ」より
   I.告別(1)、II 告別(2)、IV 雨ニモマケズ
      詩・宮沢賢治 曲:千原英喜

日時: 2019年1月4日(金) 14:30開場 15:00開演
場所: 三田市総合文化センター 郷の音ホール 小ホール
入場料: 1000円

 チケットをご希望の方は、「女声合唱団Stella」のWebサイトに、申し込み用のフォームがあります。

女声合唱団Stella第7回定期演奏会(表)

女声合唱団Stella第7回定期演奏会(裏)

 去る6月27日に、花巻農業高校のOBという方からメールをいただき、「iPhone用の精神歌の着信音できませんか?」とのご依頼を承りました。
 週末に作成作業をして、メールで依頼者様にお送りしようと思ったのですが、なぜか返信をしても、「アドレスが見つからなかったか、メールを受信できないアドレスであるため、メールは配信されませんでした。」とのエラーメッセージが返ってきてしまいます。

 そこで、本日はこの場に「花巻農学校精神歌」のiPhone着信音ファイルを公開いたしますので、先日メールを下さった依頼者様が、もしもここをご覧いただいていましたら、ダウンロードしてお使い下さい。
 他の方々も、どうぞご自由にダウンロードして使ってみて下さい。

 iPhoneの着信音は、「m4r」という拡張子になっていますが、このままクリックしても再生されないかと思いますので、同じデータをMP3形式にしたものを、下に「試聴用MP3」として掲載しています。パソコンで試聴される場合は、こちらをクリックして下さい。

seishinka6_8.m4r (8分の6拍子版)
  (試聴用MP3

seishinka4_4.m4r (4分の4拍子版)
  (試聴用MP3

 ところで、「花巻農学校精神歌」は、8分の6拍子の版と4分の4拍子の版に二種類で歌い継がれていて、これまでの全集にも、二つの楽譜が掲載されています。(下画像は、ちくま文庫版宮沢賢治全集より)

二種類の花巻農学校精神歌

 「賢治祭」や「宮沢賢治学会懇親会」の終わりにこの歌を全員で合唱する時など、一般的には8分の6拍子のバージョンが歌われることが多く、当サイトの「歌曲の部屋」にも、8分の6拍子の編曲を掲載しています。一方、今回の依頼者様は花巻農業高校のOBでいらっしゃるとのことでしたが、私が花巻農業高校の行事等に参加させていただいた折に聞いた範囲では、すべて4分の4拍子で歌われていましたので、今回は4分の4拍子のバージョンも作成してみました。
 編曲は単純な二声部にして、楽器はどうしようか迷いましたが、電話の着信音というイメージから、「ハンドベル」の音色にしています。
 iPhoneの着信音は30秒以内に限定されていますので、上記ファイルも30秒ちょうどにしたため、1コーラスの途中までしか入っていません。

【着信音の設定の仕方】

  1. まず、上記の「seishinka6_8.m4r」あるいは「seishinka4_4.m4r」をクリックして、ファイルをパソコンにダウンロードします。
  2. お使いのiPoneとパソコンをUSBケーブルで接続し、iTunesを起動します。
  3. iTunesの左側の一覧から「デバイス」の中の「着信音」をクリックし、「着信音」画面を開きます。
  4. 「着信音」画面に、ダウンロードしておいた「seishinka6_8.m4r」あるいは「seishinka4_4.m4r」ファイルを、ドラッグ&ドロップします。

iTunes「着信音」画面

  1. iTunesとiPhoneを同期します。
  2. iPhoneで、「設定」―「サウンド」―「着信音」をタップして、取りこまれている「seishinka」ファイルを選択します。
 それでは花農OBのKさん、このファイルがお役に立てれば幸いです。

 3月9日に、オペラシアターこんにゃく座による公演「想稿・銀河鉄道の夜」を観てから、「ケンタウルス、露をふらせ!」という萩京子さんの曲がずっと頭の中で流れつづけていたので、当日購入したパンフレットに掲載されているその楽譜をもとに、この曲の VOCALOID 版を作成してみました。
 「想稿・銀河鉄道の夜」は、賢治の原作を尊重しながらも北村想さんが「自分の読みを刻ん」だ劇ですが、物語の前半で「ケンタウル祭」の晩に、子どもたちはみんな嬉しさいっぱいで、この歌を唄います。

 それにしても、賢治による「ケンタウルス、露をふらせ」のかけ声に、北村さんが加えた「子どもたちの髪をぬらせ」という一節は、この物語の悲劇的な側面を暗示しているようでもあり、不思議な雰囲気を醸成しています。
 と言うのも、この物語において「ぬれて」いるということは、カムパネルラが「ぬれたやうにまっ黒な上着をきた、せいの高い子供」として登場し、途中から乗車した小さな男の子が「ちぢれてぬれた頭」「ぬれたやうな黒い髪」をしていることに表れているように、水難事故の死者の表徴でもあるのです。
 萩京子さんによる、楽しげだけれど一抹の寂しさも漂う曲想が、その雰囲気にぴったりと寄り添っています。

 下のファイルの歌は、VOCALOID の Mew、初音ミク、Kaito で、二番の冒頭のソロは、Mew です。本番では、伴奏にクラリネットとチェロも加わってさらに色彩豊かな音楽でしたが、ここではパンフレット掲載の楽譜に従って、伴奏はピアノのみになっています。かわりというわけではありませんが、「ケンタウルス!」の部分に、「露」のイメージで「鈴」を入れてみました。

♪ 「ケンタウルス 露をふらせ」(2.57MB)

               詩: 北村 想  曲: 萩 京子
一、星の祭の夜は
   星座表から星が空に帰る
   白鳥は舞い
   琴は奏で
   天秤は揺れ
   かんむり輝く
   ケンタウルス 露をふらせ
   子どもたちの髪をぬらせ

二、星の祭の夜は
   星座表から星が空に帰る
   牛飼いは歩き
   竜はうねり
   鷲は飛び
   蠍は跳ねる
   ケンタウルス 露をふらせ
   子どもたちの髪をぬらせ
   ケンタウルス 露をふらせ
   子どもたちの髪をぬらせ

萩京子「ケンタウルス 露をふらせ」
オペラ「想稿・銀河鉄道の夜」公演パンフレットより

 一昨日に行われた、宮沢賢治学会地方セミナーin神戸「宮沢賢治と音楽」は、素晴らしい会場にたくさんの方々にお越しいただいて、印象に残る催しとなりました。
 下の写真はリハーサル時のものですが、プログラムの最後ではこの見事なパイプオルガンで、映画「風の又三郎」のテーマ音楽や、「星めぐりの歌」が演奏されました。何メートルもある巨大なパイプが「どっどど どどうど・・・」と振動する様子は、まさにこれは「風の楽器」であることを実感させてくれました。

甲南女子大学芦原講堂のパイプオルガン

 私にとって今回のイベントは、長年『新校本宮澤賢治全集』の歌曲の部分の校訂や、著書『宮沢賢治の音楽』によってその研究成果を学ばせていただいた、佐藤泰平さんに直接お会いしてお話をうかがうことができたことが、何よりも嬉しいことでした。
 個人的に、『新校本全集』の歌曲の校訂に関して疑問に思っていた点がいくつかありましたので、セミナー終了後の懇親会の際に、佐藤さんに質問をさせていtだきました。
 以下、そのご報告です。

【質問1】
 『新校本全集』における歌曲「〔私は五聯隊の古参の軍曹〕」の歌詞は、『十字屋版全集別巻』巻末に付された「全集第六巻並に別巻解説」(森惣一)に、「当時の生徒」の証言として掲載されていた内容に基づいて、下記のようにされている。

一、私は五聯隊の古参の軍曹
   六月の九日に演習から帰り
   班中を整理して眠りました
   そのおしまひのあたりで夢を見ました。

二、大将の勲章を部下が食ふなんて
   割合に適格なことでもありませんが
   まる二日食事を取らなかったので
   恐らくはこの変てこな夢をみたのです。

 一方その旋律は、当時の流行歌「チッペラリー」を忠実に反映した下記のようなもので、これに従うと歌詞の「一番」と「二番」の旋律は別のものになる。
tippe[1].gif

 しかし、賢治が「飢餓陣営」を上演した際には、「一番」も「二番」も上の楽譜で言えば5段目の"CHORUS"と書かれている以降の部分の旋律で歌っていたと推測するのが、妥当ではないか?

 私が上のように推測した理由の一つは、一般的に歌の「一番」と「二番」とは、同じ旋律で歌うものであり、賢治の他の歌曲でも、「一」「二」と番号が付いているものはそうなっているという、ごく当たり前のことでした。
 そして、そのもう一つの理由は、賢治の教え子の小原忠の証言です。小原は、「この歌(チッペラリー)は大正十二年、賢治が英語で教えて全校で歌われた。初めの方だけうろ覚えで云うと、イッチヤロングウェーチッペラリーイッチャロングウェーツーゴー・・・」と回想しているのですが(佐藤泰平『宮沢賢治の音楽』p.84)、この英語の歌詞に対応するのはやはり上の楽譜の"CHORUS"以降の部分なのです。その部分を、小原が「初めの方」と呼んでいるということは、それ以前の部分、すなわち上の楽譜で第1段から第4段の旋律や歌詞は、賢治は生徒に教えなかったのではないか、と考えられるのです。
 この"CHORUS"以降の旋律、いわゆる「サビ」の部分で、「一番」「二番」の両方を歌うこともできることは、佐藤さんご自身も『新校本全集』の校異篇に、「一般には曲の後半がよく知られているので、後半のふしだけを用いて一・二節を歌うのも可能である。」と述べておられることで、佐藤さんも想定済みのことです。
 私のこの質問に対する 佐藤さんのお答えは、「確かにそのとおりだと思う、でも一番と二番を別の旋律にした方が面白い」というものでした。
 実際、上の楽譜で歌った方が、歌としては面白いのは確かです。しかし、全集の校訂方針としては、「面白さ」よりも「賢治がどう歌っていたか」ということを優先すべきと思いますので、私としては「後半のふしだけを用いて一・二節を歌う」方を取りたいと考えています。
 ちなみに、当サイトの「歌曲の部屋」に載せている「〔私は五聯隊の古参の軍曹〕」の旋律は、佐藤さんによる『新校本全集』の楽譜どおりにしていますが、今回の神戸セミナーにおいて、「後半のふしだけを用いて一・二節を歌う」という演奏をご紹介しました。下記をクリックして、聴き比べてみて下さい。

新校本全集版「〔私は五聯隊の古参の軍曹〕」

神戸版「〔私は五聯隊の古参の軍曹〕」

【質問2】
「飢餓陣営」より 『新校本全集』において「「飢餓陣営」の歌(五)」には、「〔いさをかゞやく バナナ 軍〕」という形で、作者が題名を付けていない場合の扱いとして「作品一行目を〔 〕で括った仮の題」が付けられているが、「飢餓陣営」のテキストにはこの歌詞の前に、「バナナ大将の行進歌」として「題名」と思われる言葉が記入されているので、この「バナナ大将の行進歌」を、歌曲の題名とするべきではないか?

 右の画像は、『新校本宮澤賢治全集』第十二巻本文篇から、「飢餓陣営」の終わりの方の部分です。合唱が「いさをかゞやく バナナ軍…」と歌い出す前に、「バナナ大将の行進歌」という言葉があるのです。
 これに対する佐藤泰平さんのお答えは、「そのとおり、この歌曲の題名は、「バナナ大将の行進歌」とするのがよいだろう」、ということでした。

【質問3】
 『新校本全集』には、全く同じ旋律による「〔つめくさの花の 咲く晩に〕」と、「〔つめくさのはなの 終わる夜は〕」という2曲が別の歌曲として掲載されているが、これらは全体として一つの歌曲と考え、前者が「一番」「二番」、後者が「三番」「四番」ととらえるべきではないか?

 これに対する佐藤さんのお答えは、「それでよいと思うが、『校本全集』までの全集では、「〔つめくさのはなの 終わる夜は〕」の方は見落とされていて収録されていなかったので、あえて別項を立てた」ということでした。
 この2曲を1曲にまとめてしまうと、賢治の歌曲の総数は、『新校本全集』における27曲から1曲減って「26曲」ということになります。何か少し寂しい感じもしますが、内容的には何も減るわけではありません。

【質問4】
 「剣舞の歌」と「大菩薩峠の歌」は、『新校本全集』には「宮沢賢治・作詞作曲」と記されているが、『昭和四二年版全集』の第十二巻の「後記」には、「「大菩薩峠を読みて」と「剣舞の歌」の二つは、この地方に伝わっている古い郷土芸能の旋律に賢治が詞をつけて自己流に口ずさんだものを、各々藤原嘉藤治と宮沢清六が口唱したものである」と記されているので(『新校本全集』第六巻校異篇p.229)、現時点では「原曲未詳」または「作曲者未詳」としておく方が適切ではないか?

 『昭和四二年版全集』の言う「この地方に伝わっている古い郷土芸能の旋律」については、佐藤さんご自身も調査をされた結果、「私が調べた範囲で賢治のふし全体と似ているものはなかった」(『宮沢賢治の音楽』p.34)と記しておられます。したがって、本当に「剣舞の歌」と「大菩薩峠の歌」が郷土芸能の旋律に基づいているのかどうか、確定はできませんし、「宮沢賢治作曲」であるという可能性も、まだ否定できるものではありません。
 しかし、上のように「宮沢賢治作曲ではない」とする説も存在する以上、現時点では「宮沢賢治作曲」とは断定せず、「原曲未詳」または「作曲者未詳」としておく方がよいのではないかと、私としては考えた次第です。
 この質問に対する佐藤さんのお答えは、「それでよいと思います」とのことでした。
 ちなみに『新校本全集』では、「〔飢餓陣営のたそがれの中〕」は(原曲 未詳)とされ、「青い槍の葉」は(作曲者 未詳)とされています。

【質問5】
 ある歌曲が「替え歌」である場合、その楽譜を作成する上では、替え歌の「原曲」にできるだけ忠実であるのと、それとも賢治の周囲の人々の「口唱」をできるだけ忠実に再現するのと、どちらが望ましいか?

 これは、かなり以前に「「【新】校本全集」の歌曲の校訂について」という記事に書いた問題です。
 一般に、賢治が何かの原曲をもとに「替え歌」を作って歌っていたとすると、
   (1)原曲
      ↓
   (2)賢治による作詞と口唱
      ↓
   (3)周囲の人も一緒に口唱
というプロセスになるでしょう。
 賢治はほとんど楽譜を残していませんでしたから、賢治によるその「替え歌」がどんな歌だったのかということを、賢治の死後に究明しようとすると、(1)の原曲の旋律に歌詞を当てはめて再現しようとするか、(3)の「周囲の人」の口唱を採譜するか、どちらかの方法を取ることになります。
 『校本全集』までの従来の全集では、(3)に基づいて関係者の口唱を採譜する方法がとられていましたが、『新校本全集』では佐藤さんによって(1)の原曲を重視する方針に変更され、これによってかなりの曲の楽譜が、それまでとは変わりました。たとえば、「〔つめくさの花の 咲く晩に〕」(『校本全集』までの題名は「ポランの広場」)などは、最も大幅に変わった結果、ちょっと聴くと別の曲かと思うほどになりました。
 この問題について、私としては『校本全集』までの方針の方が妥当ではないかと考え、そのことを「「【新】校本全集」の歌曲の校訂について」にも書いていたのですが、これを佐藤さんに直接お聞きしてみたかったのです。
 結果としては、時間もあまりなかったのと、私の説明も拙かったために、きちんとかみ合った質問と回答という形にはなりませんでした。
 ただ、「ポランの広場」の原曲である"In the good old summer time"は3拍子であるのに、『校本全集』までの「ポランの広場」は2拍子になっていることについて、佐藤さんは「当時の日本人は3拍子にあまり馴染みがなかったので、2拍子になってしまったのだろう」とおっしゃっていました。
 また、では実際に賢治自身や劇を演じた生徒は3拍子か2拍子かどちらで歌っていたんでしょう、という私の質問に対しては、「時によって2拍子だったり3拍子だったりしたのではないか」とおっしゃったのが印象的でした。
 思えば「花巻農学校精神歌」も、沢里武治の記憶に基づくという8分の6拍子の楽譜と、藤原嘉藤治の採譜によるという4分の4拍子の楽譜の2種が残されており、時によって別の歌われ方をしていたと推測されるのです。

 慌ただしい中で、以上のような会話をさせていただいたのですが、不躾にたくさんの質問を浴びせかけてしまった私に対して、終始優しく丁寧にお答え下さった佐藤泰平さんに、あらためて感謝申し上げます。

 来たる12月23日(金・祝)に神戸市の甲南女子大学で開かれる、「宮沢賢治学会地方セミナーin神戸『宮沢賢治と音楽』」まで、あと5日になりました。

宮沢賢治学会地方セミナーin神戸「宮沢賢治と音楽」

 会場は、見事なパイプオルガンもあって1,800名も入る大きな講堂で、まだ甲南女子大学のサイトでは参加の受付を行っていますので、ご興味のおありの方は、ぜひお越し下さい。
 当日のプログラムでは、『新校本宮澤賢治全集』の「歌曲」の項目を監修された佐藤泰平さんのご講演と、「西日本一」とも言われるパイプオルガンの響きが、何と言っても聞きものだと思います。

 私も今月に入ってからは、もっぱらこの準備の方をやっていて、こちらのブログの更新がほとんどできずに心苦しい思いをしていましたが、やっと当日のスライドがだいたいできてきたところです。

 下に、そのスライドの中の1枚と、当日用に少し演奏を変えた「ポラーノの広場のうた」を、ご紹介しておきます。スライドの画像をクリックすると、歌が再生されます。
 会場のものにはとても及びませんが、二番はパイプオルガンの伴奏にしてみました。

「ポラーノの広場のうた」

 昨日8月27日は、宮澤賢治の誕生日でした。今年が「賢治生誕120周年」にあたるということで、今年に入ってからこれまでにも全国のあちこちで記念の催しが行われてきましたが、まさにこの週末、それらのイベントはピークを迎えています。
 地元花巻では、宮沢賢治学会イーハトーブセンター主催の「第4回国際研究大会―イーハトーブは今どこにあるのか」(8月27日-29日)、宮沢賢治記念館では手帳実物を展示する「雨ニモマケズ」展(8月20日-28日)、宮沢賢治童話村では「イーハトーブ・フェスティバル」(8月26日-28日)や「童話村の森ライトアップ」(8月20日-28日)などが開かれています。
 これ以外にも、賢治の母校でもある盛岡市の岩手大学では「リバイバル賢治」(8月29日-9月20日)があり、また丹波篠山でも8月27日には「宮沢賢治生誕120年の催し」が行われました。9月に入ると、埼玉県小鹿野町で「宮沢賢治 小鹿野町来訪100年・生誕120周年記念祭」(9月4日)や、岩手県一関市の「石と賢治のミュージアム」で「防災一人語り ・ 宮沢賢治生誕120年記念公演」もあり、まさに「目白押し」という感じですが、これら沢山のイベントの、おそらく今年最後を飾ることになるのが、12月23日に宮沢賢治学会・地方セミナーとして神戸で開かれる、「宮沢賢治と音楽」という催しです。

「宮沢賢治と音楽」チラシ表

「宮沢賢治と音楽」チラシ裏

 内容は、賢治の音楽に関する研究の第一人者である佐藤泰平さんによる講演や、ピアノ演奏、そして「西日本一」と言われる甲南女子大学のパイプオルガンの演奏もあるという多彩なものですが、当日は私も佐藤さんの「前座」として、「宮沢賢治の歌曲をめぐって」と題してお話しをさせていただくことになりました。佐藤泰平さんと同じステージに立てるとは、それだけでも光栄な感じがしています。
 このイベントは、甲南女子大学の公開講座として、12月8日、15日、24日に行われる講演会やクリスマスチャリティコンサートの一環に位置づけられており、申し込みは甲南女子大学のサイトのこちらのページから行えるようになっています。

 まだだいぶ先のイベントですが、今日はその時に使うことも考えて、賢治の「角礫行進歌」の演奏ファイルを作り直してみました。これは、グノーのオペラ「ファウスト」の中の「兵士の合唱」のメロディーを賢治が替え歌にしたものなのですが、今回は原曲のオーケストレーションを、ほぼ忠実に再現してみました。

角礫行進歌(MP3: 1.86MB)

氷霧(ひょうむ)はそらに(とざ)し、
落葉松(ラーチ)(くろ)くすがれ、
稜礫(りょうれき)の あれつちを、
やぶりてわれらはきたりぬ

(てん)のひかりは()りも()ず、
 (てん)のひかりは(そゝ)()ず、
 (てん)のひかりは()しも()ず。
 タララララ タララララ タラララ 

かけすの(うた)途絶(とだ)え、
腐植質(フームス)はかたく(こご)ゆ、
角礫(かくれき)のかどごとに、
はがねは火花(ひばな)をあげ()し。

Sachikoの歌う「大菩薩峠の歌」

 先日 YAMAHA から、歌手の小林幸子さんの歌声をもとにした VOCALOID 音声ライブラリー、‘Sachiko’が発売されました。

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 あのドスのきいた小林幸子さんの声…を想像して、個人的にまず制作してみたいと思ったのが、賢治の「大菩薩峠の歌」でした。

 ということで、以前に「歌曲の部屋」で公開していたものとは、伴奏の楽器編成も少し変えて、DTM化してみたのが、下のファイルです。

♪ 大菩薩峠の歌 MP3 (Sachiko版)

二十日月かざす刃は音無しの
       虚空も二つときりさぐる
                  その竜之助

風もなき修羅のさかひを行き惑ひ
       すすきすがるるいのじ原
                  その雲のいろ

日は沈み鳥はねぐらにかへれども
       ひとはかへらぬ修羅の旅
                  その竜之助

 VOCALOID も本当に進化したもので、以前の「初音ミク」などは、人間の歌とは違うヴァーチャルな感じがその魅力の一つだったものでしたが、これはまるで、小林幸子さん本人が歌っているかのような独特のビブラートまで聴かせてくれます。
 伴奏楽器は、Garritan World Instruments から、琴、古箏、鼓、中太鼓、虎杖笛、ベース、それに持鈴です。

 以前から作成していた、千原英喜氏作曲の歌曲「ちゃんがちゃがうまこ」、「宮沢賢治の最後の手紙」、そして今回の「祭日」を、まとめて「歌曲の部屋~後世作曲家篇~」の、「千原英喜 「雨ニモマケズ」ほか」というページに、アップロードしました。

 千原氏が、宮澤賢治の世界に精力的にアプローチしておられるお仕事の一端を、VOCALOIDの歌声で垣間見ることができると思います。
 よろしければ、お試し下さい。

千原英喜作曲「祭日」

  • 記事分類:

 去る6月28日に、大阪のいずみホールで大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団による「千原英喜と宮沢賢治―その魅力の音世界」を聴いて感動したことをきっかけに、千原英喜作曲の「祭日」のDTMによる演奏を作成してみました。
 これは、千原氏による『児童・女声合唱組曲 ちゃんがちゃがうまこ』の第4曲で、賢治の文語詩「祭日〔二〕」に曲を付けたものです。
 下のリンクをクリックして、mp3でお聴き下さい。

祭日(mp3)

 歌詞となっているテキストは、下記です。

  祭日〔二〕

アナロナビクナビ 睡たく桐咲きて
峡に瘧のやまひつたはる

ナビクナビアリナリ 赤き幡もちて
草の峠を越ゆる母たち

ナリトナリアナロ 御堂のうすあかり
毘沙門像に味噌たてまつる

アナロナビクナビ 踏まるゝ天の邪鬼
四方につゝどり鳴きどよむなり

 ここで描かれているのは、花巻市街から10kmほど東へ行ったところにある、「成島の毘沙門天」です。
 2行目の「峡」とは、北上山地から稗貫平野へと流れ下る猿ヶ石川のことです。この流れのほとりの毘沙門堂に、高さ4.7mという日本最大の毘沙門天像があり、周辺の村々の信仰を集めています。「瘧(おこり)のやまひ」とは、高熱が出る病気の総称で、「つたはる」というからには伝染性のものなのでしょう。
 疫病にかかった子供を持つ母親たちは、何としても回復してほしいという切実な願いを胸に、毘沙門天に供えるための赤い幡を手に、峠を越えて御堂に集まってきます。この成島の毘沙門天の面白い特徴は、大きな木像の足の部分に味噌を塗りつけるとご利益があると言われているところで、巡礼者はそれぞれが味噌を持ってきて、毘沙門様の脛に塗りつけては祈るのです。
 各連の最初に出てくる「アナロナビクナビ…」という謎の言葉は、いったい何のことかと思いますが、これは法華経陀羅尼品第二十六にある毘沙門天の陀羅尼(呪文)です。その意味は、「富める者よ、踊る者よ、讃歌に依って踊る者よ、火神よ、歌神よ、醜悪なる歌神よ」というものだそうです。ただ、これは特に成島の毘沙門天で唱えられているというわけではなく、賢治が独自にここに持ってきてはめ込んだもので、言葉そのものの意味というよりも、音の響きによる表現性を意図して取り入れてある印象です。

 「アナロナビクナビ…」という不思議な言葉と、薄暗い御堂の中で像の足に味噌を塗りつけるという行為は、言いようもない一種の「呪術性」を醸し出しています。
 それは、子供の伝染病という人間の力を超えた恐怖に対処しようとする母親たちの、必死の祈りの表現ですが、このようなすぐれて人間的な営みと、「桐の花」「草の峠」「つつどり」などという自然の風景とが、一つの構図のもとに対照をなして描かれています。

 千原英喜氏は、これに日本的なペンタトニックの素朴な旋律を付け、母親たちの切実な情感も込めます。
 最後の方の「四方につゝどり鳴きどよむ…」のあたりのピアノ伴奏に出てくるアルペジオは、詩に合わせて鳥の鳴き声を音で表現したものかと思いますが、今回の演奏では、この部分に実際の鳥の鳴き声も入れてみました。ちょっと小さいですが、「ポポッ、ポポッ」という声で入っているのが、「つつどり」です。耳を澄ませて、聴いてみて下さい。

 歌は、VOCALOID第一世代のMeiko、第二世代の初音ミク、第三世代のMewの共演です。

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 酒井俊さんという歌手がおられて、ジャンルは何と言えばいいのか、私ごときにはよくわかりませんが、1970年代にジャズヴォーカルとしてセンセーショナルにデビューし、その後マンハッタンで生活していた時期などをはさんで、ある時点からはもっぱら日本語で歌う道を選び、1995年の阪神淡路大震災以降は被災者への鎮魂歌とも言うべき「満月の夕」を歌い続けて2003年日本レコード大賞企画賞を受賞し、現在はベトナムで暮らしながら、日本でも音楽活動をしているという、そんな方です。
 一般的な音楽ジャンルの境界など超越しておられる感じですが、しいてその歌を位置づけるならば、「日本の魂のあふれたジャズ」ということになるんでしょうか? その歌声は、温かくやさしく、それでいて力強く、初めて聴いても不思議な懐かしさを感じます。

 その酒井俊さんは、宮澤賢治を深く敬愛しておられるということで、このたび4月20日に、その名も『花巻農学校精神歌』というアルバム(上のジャケット)を発売されます。この日はくしくも、賢治が『春と修羅』を出版した記念の日ですね。
 そしてその発売に合わせ、4月14日から5月26日まで、日本各地29ヵ所でライブ「怒濤の全国ツアー」を開くということで、その京都公演を企画しておられる方から、お知らせをいただきました。
 京都では、4月16日(木)の夜に、鞍馬口の「」というレストランで開かれます。私は、開演には遅れてしまいそうなのですが、それでもぜひ聴きに行きたいと思っています。

『花巻農学校精神歌』新譜アルバム発売記念ライブツアー
京都公演
  日時: 4月16日(木)18:30 開場/19:30 開演
  場所: カジュアルレストラン 陽 (地下鉄「鞍馬口」駅徒歩3分)
  料金: 3500円(ドリンク代別途)
  予約: 075-414-0056(陽)

酒井俊『花巻農学校精神歌』発売記念ライブツアー京都公演

 さらに、全国ツアーの予定は下記のとおりだということで、これはまさに「怒濤のツアー」ですね!

中京関西山陽ツアー
4月14日(火): 名古屋「得三」
4月15日(水): 大阪「ラグタイム大阪」
4月16日(木): 京都「レストラン 陽」
4月17日(金): 神戸「James Blues Land」
4月19日(日): 広島「行者山太光寺」
4月20日(月): 広島「オリエンタルホテル広島 3Fチャペル」
九州ツアー
4月22日(水): 福岡「ニューコンボ」
4月23日(木): 久留米「ルーレット」
4月24日(金): 熊本「Restaurant & Live Bar CIB」
4月25日(土): 熊本「リハビリテーション病院」
4月28日(火): 喜界島「SABANI」
4月29日(水): 鹿児島「明日の地図」
TOKYO公演
5月 1日(金): 下北沢「ザ・スズナリ」
東北中越北関東ツアー
5月 7日(木): 宇都宮「悠日カフェ」
5月 8日(金): 二戸「蔵元南部美人」
5月 9日(土): 八戸「茶屋東門」
5月10日(日): 気仙沼「ヴァンガード」
5月12日(火): 仙台「カーボ」
5月13日(水): 新潟「Jazz FLASH」
5月14日(木): いわき「Bar QUEEN」
北海道ツアー
5月18日(月): 札幌「JERICHO」
5月19日(火): 小樽「GROOVY」
5月20日(水): 伊達「チロル」
5月21日(木): 函館「Ji-no」
5月23日(土): 釧路「ジスイズEST」
5月24日(日): 三石「蓬莱音楽館」
5月25日(月): 東川「叢舎」
5月26日(火): 札幌「くう」
横浜公演
5月28日(木): 新横浜「エアジン"ラントラクト1F」

 詳しくは、酒井俊さんのオフィシャルサイトの「4月のスケジュール」および「5月のスケジュール」のページからご覧いただくことができます。

 最後に、下のYouTubeからは、CD『花巻農学校精神歌』の一部を視聴することができます。

 これまで宮澤賢治の詩にもとづいた多くの合唱曲を作曲・初演してきた、千原英喜氏と大阪コレギウム・ムジクムのコンビが、東京と大阪で公演を行います。
 大阪コレギウム・ムジクム創立40周年記念にあたり、「千原英喜と宮沢賢治~その魅力の音世界~」と題して、5月24日(日)に東京・浜離宮朝日ホールで、6月28日(日)に大阪・いずみホールで、それぞれコンサートが行われます。
 当日は音楽だけでなく、照明と演出が付いた「シアターピース舞台作品」として演じられるのだということです。また演奏に先立って、作曲の千原英喜氏と、大阪コレギウム・ムジクム主宰の当間修一氏のお二人による、「プレトーク」があるのも楽しみですね。
 プログラムは、下記の4曲です。

種山ヶ原の夜の歌 ―異伝・原体剣舞連

文語詩稿<祭日>
混声合唱とチェロ、ピアノ、パーカッションのために

児童・女声合唱組曲
ちゃんがちゃがうまこ

混声合唱とピアノのための組曲
わたくしという現象は

 「種山ヶ原の夜の歌」および「祭日」は、いずれも2007年大阪コレギウム・ムジクム委嘱作品です。
 出演は、下記のとおり。

指揮・演出: 当間 修一
ピアノ: 木下 亜子
チェロ: 大木 愛一
打楽器: 高鍋 歩 奥田 有紀
笛: 礒田 純子
合唱: 大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団
     大阪コレギウム・ムジクム合唱団

 千原英喜氏による宮澤賢治作品のコンサートには、2007年9月10月2010年12月2014年7月にも行ったのですが、いずれも印象に残る素晴らしい体験となりました。
 賢治ファンには、お勧めのコンサートだと思います。

大阪コレギウム・ムジクム「千原英喜と宮沢賢治」

【参考】
 ちなみに下記は、これまでに私が VOCALOID で演奏してみた千原英喜作品(の真似事)です。

・「雨ニモマケズ
・「ちゃんがちゃがうまこ
・「宮沢賢治の最後の手紙

 昨年12月2日に行った「第4回イーハトーブ・プロジェクトin京都ー歌でつづる宮沢賢治の世界」においてソプラノの大神田頼子さんは、作曲家の青島広志氏の編曲による賢治歌曲も、何曲か歌って下さいました。
 実は私は、青島広志氏編曲による賢治歌曲集の楽譜『ポランの広場』を1999年から持っていて、このサイトに最初に「歌曲の部屋」を作る際には、いろいろMIDIに打ち込んだりしてDTMの勉強をしていました。その歌を実演で聴いたのは今回が初めてだったのですが、何かとても懐かしい感じがしました。

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 その懐かしさに惹かれて、年末頃から再び青島広志氏の編曲による賢治歌曲のDTM演奏を、作ってみていました。
 それでとりあえずできたのが、下記の「星めぐりの歌」と「剣舞の歌」です。

 青島氏による「星めぐりの歌」は、可愛らしく素朴な小品です。もともとこの曲は2拍子ですが、多くの人がこの歌を唄う時とは強拍・弱拍が逆になっていて、それがまた心地よい感じもします。
 原曲はピアノ伴奏ですが、ここではハープの音色にしてみました。

星めぐりの歌(青島広志編曲)

あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の  つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、

アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした  ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。


 一方、青島氏による「剣舞の歌」は、勇壮な激しい音楽になっています。この前奏を聴くと、ハチャトゥリアンのバレー音楽「ガイーヌ」の中の有名な一曲「剣の舞い」を連想しますが、実際に譜面を見比べると、青島氏によるピアノ伴奏の左手は、「剣の舞い」におけるハープの動きと同一の音型になっていて、この編曲がハチャトゥリアンにインスパイアされたものであることが、はっきりとわかります。
 そこで今回は、青島氏によるピアノ伴奏に、ハチャトゥリアンのスコアに倣って簡易オーケストレーションを施し、オーケストラ伴奏による演奏を作ってみました。パーカッションではシロフォンとティンパニ、スネアドラム、あとトロンボーンのポルタメントや高音の木管が活躍します。
 まあ、余興のようなものと思ってお聴きいただければ幸いです。

剣舞の歌(青島広志編曲)

夜風とどろきひのきはみだれ
月は射そそぐ銀の矢並
打つも果てるも火花のいのち
太刀の軋りの消えぬひま
  dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah

太刀は稲妻萱穂のさやぎ
獅子の星座に散る火の雨の
消えてあとない天のがはら
打つも果てるもひとつのいのち
  dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah

 宮澤賢治は1933年(昭和8年)9月11日に、元教え子の柳原昌悦にあてて、一通の手紙を書きました。死の10日前に、原稿用紙に書かれたこの書簡が、賢治の最後の通信となりました。
 この手紙は、彼の生涯で最後のものであるという位置づけにとどまらず、その内容がいろいろな意味で読む者の心を打つために、朗読で取り上げられることもしばしばあります。
 作曲家の千原英喜氏は、東日本大震災の後、このテキストに曲を付けて、「朗読とユニゾンによる宮沢賢治の最後の手紙」を作られました。そして千原氏は、カワイ出版が主催する「歌おうNIPPONプロジェクト」に無償でこの曲を提供し、被災地に歌声とエールを届けるという趣旨で、楽譜も公開されたのです。
 深甚な衝撃と喪失を経験したこの国に、「楽しめるものは楽しみ、苦しまなければならないものは苦しんで生きて行きませう」という、賢治の淡々とした語り口が贈られました。

 私たちは、先日の「第4回イーハトーブ・プロジェクトin京都」においても、千原英喜氏の「雨ニモマケズ」を取り上げて聴衆の皆さんとともに味わいました。実は私はその準備期間から、個人的にこの「宮沢賢治の最後の手紙」にはまってしまって、様々な演奏をYouTubeなどで探しては、繰り返し聴いていました。
 そしてコンサートが終わるのを待ちかねるようにして、この曲をDTMで作成してみたのです。

 下が、とりあえず完成したそのMP3ファイルです。歌は、歌声合成ソフト VOCALOID の Mew、初音ミク、Kaito の3名。
 曲の最後には、ある余分な効果音が入っていますが、これは私が勝手に付けてしまったものです。ご容赦下さい。

♪ 宮沢賢治の最後の手紙(MP3: 5.89MB)

 この曲は、ピアノ伴奏に載せて朗読と歌が交互に登場するという形式をとっています。テキストは下記で、作曲にあたって賢治の原文から( )内は省略され、〔 〕が補われています。

八月廿九日附お手紙ありがたく拝誦いたしました。
あなたはいよいよ(ご)〔お〕元気なやうで実に何よりです。
私もお蔭で大分癒っては居りますが、
(どうも今度は前とちがってラッセル音容易に除こらず、
 咳がはじまると仕事も何も手につかずまる二時間も続いたり、
 或は夜中胸がぴうぴう鳴って眠られなかったり、)
仲々もう全い健康は得られさうもありません。
けれども(咳のないときは)とにかく人並に机に座って切れ切れながら 七八時間は何かしてゐられるやう〔に〕なりました。

あなたがいろいろ思ひ出して書かれたやうなことは最早二度と出来さうもありませんが、
それに代ることはきっとやる積りで毎日やっきとなって居ります。
しかも心持ちばかり焦ってつまづいてばかりゐるやうな訳です。
(私のかういふ惨めな失敗はたゞもう今日の時代一般の巨きな病、「慢」といふものの一支流に過って身を加へたことに原因します。)
僅かばかりの才能とか、器量とか、
身分とか財産とかいふものが何かじぶんのからだについたものででもあるかと思ひ、
(じぶんの仕事を卑しみ、同輩を嘲り、)
いまにどこからかじぶんを所謂社会の高みへ引揚げに来るものがあるやうに思ひ、
(空想をのみ生活して却って完全な現在の生活をば味ふこともせず、幾年かゞ空しく過ぎて漸く自分の築いてゐた蜃気楼の消えるのをみては、たゞもう人を怒り世間を憤り従って師友を失ひ憂悶病を得るといったやうな順序です。)
あなたは賢いしかういふ過りはなさらないでせうが、
(しかし何といっても)時代が時代ですから充分にご戒心下さい。

風のなかを自由にあるけるとか、
はっきりした声で何時間も話ができるとか、
じぶんの兄弟のために何円かを手伝へるとかいふやうなことは
できないものから見れば神の業にも均しいものです。
そんなことはもう人間の当然の権利だなどといふやうな考では、
本気に観察した世界の実際と余り〔に〕遠いものです。
どうか今の(ご)生活を大切にお護り下さい。
上のそらでなしに、しっかり落ちついて、一時の感激や興奮を避け、
楽しめるものは楽しみ、
苦しまなければならないものは苦しんで生きて行きませう。

いろいろ生意気なことを書きました。
病苦に免じて赦して下さい。
それでも今年は心配したやうでなしに作もよくて実にお互心強いではありませんか。
また書きます。


 それにしても、「楽しめるものは楽しみ、苦しまなければならないものは苦しんで生きて行きませう」との言葉が、何とも心に突き刺さります。死を前にして・・・。

千原英喜「宮沢賢治の最後の手紙」

 去る12月2日、「第4回イーハトーブ・プロジェクトin京都~歌でつづる宮沢賢治の世界~」が無事終了いたしました。おかげさまで、171名もの方々がお越し下さり、皆でご一緒に賢治の音楽を楽しむひとときを過ごすことができました。

 とりあえず本日は、いくつかの写真を中心に、アップします。

 まず、お昼前の会場設営。
会場設営
 これは、歌手用のサスペンションライトの位置を調節しているところ。舞台上手にあるスクリーンには、コンサートのタイトル画像を映しています。

 続いて、午後1時半からのリハーサル風景。
「月夜のでんしんばしら」
 ソプラノの大神田頼子さん、バリトンの浦恩城利明さんが、「二本腕木」の格好をしながら「月夜のでんしんばしら」を歌っています。後ろの黄色の丸は、大きな月・・・。

 次は本番の写真から、大神田頼子さんによる「星めぐりの歌」。
「星めぐりの歌」
 スクリーンには、歌に登場するタイミングに合わせて、星座の絵が映されました。「大ぐまのあしを きたに/五つのばした ところ」では、パワーポイントのアニメーション機能を使って、柄杓の外縁を一、二、三、四、五、と5倍に延ばし、「そらのめぐりの めあて」で、その北極星を中心に、星座が360°回転しました。

 「剣舞の歌」の様子。
「剣舞の歌」
 この曲は、大神田さんの振り付けつきです!

 「イギリス海岸の歌」。
「イギリス海岸の歌」
 バックには、ちらちらと揺れる波が映っています。今回は、会場の照明担当の方が、私たちと一緒にいろいろと効果を考えて下さって、様々な「かげとひかりのひとくさり」が映されました。

 大神田さんと浦恩城さんの二重唱で、千原英喜作曲「雨ニモマケズ」。
「雨ニモマケズ」
 通常のプログラムとしては、これが最後の曲でした。作曲者の千原さんご自身が、「今を生きる皆への応援歌、命の讃歌」と呼ぶ、熱いマーチ。

 最後には、「種山ヶ原」を会場の皆さんと合唱をしようという趣向でした。下写真は、合唱に先立ち、竹崎利信さんによる「種山ヶ原」の歌詞朗読。
「種山ヶ原」朗読
 竹崎さんは、「第3回イーハトーブ・プロジェクトin京都」に出演していただきましたが、今回は実行委員会に加わり、舞台監督として緻密に進行を司って下さいました。

 朗読に続いて出演者は舞台に集まり、会場もご一緒に「種山ヶ原」の合唱。
「種山ヶ原」合唱
 会場の皆さんもしっかり声を出して下さって、感動的な歌になりました。

 今回のコンサートのちょっと変なところの一つは、3~4曲ごとの合間に、私がかなり僭越にも出しゃばって、「解説」を入れさせていただいたことです。へたをすると、演奏会の総計時間の3割くらいは、私がしゃべっていたかもしれません。
 ほんとにこんなコンサートでもよいのか?と迷いつつも、準備をしていました。

 それから今回のもう一つの変なところは、上の写真にもあるように、舞台上手にけっこう大きなスクリーンを置いて、そこにそれぞれの歌に関連した画像などを投影していたことです。
 それに、解説をする時には私が上写真で朗読をしている演壇に立ち、このスクリーンに説明用スライドを映していたので、何か学校みたいにちょっと堅苦しかったかもしれません。

 まあこういうような感じで、良し悪しはともかく、音楽会にしてはえらく「音以外の情報」を盛り込もうとした企画と相成りました。
 いろいろなご感想があったかと思いますが、でも「わかりやすくて、愛が込められていた」とのお声をいただけたのは、主催者としては何よりも嬉しかったです。

 いよいよ明日12月2日(日)は、「第4回イーハトーブ・プロジェクトin京都~歌でつづる宮沢賢治の世界~」です。
 事前に作成したチラシでは、「ソプラノとピアノ」という構成でしたが、その後、バリトンの方も共演していただけることになり、ソプラノとバリトンがかわるがわる、また時に二重唱で、賢治の歌曲を歌います。

 まだ会場の席に余裕はありますので、明日の夕方直接お越しいただいても入場は可能です。ホールは、京都駅の八条口の目の前。

第4回イーハトーブ・プロジェクトin京都
歌でつづる宮沢賢治の世界

[出演]
ソプラノ: 大神田 頼子
バリトン: 浦恩城 利明
ピアノ: 小林 美智
解説: 浜垣 誠司

[日時]
12月2日(日) 午後5時30分開演(午後5時開場)
[場所]
龍谷大学アバンティ響都ホール(京都駅八条口前)にて
チケット:2500円

 解説のために作ったスライドは、歌の際に流す画像も含めて、パワーポイントで84枚にもなってしまいました。

 歌でつづる宮沢賢治の世界(スライド1)

歌でつづる宮沢賢治の世界(スライド2)

スライドつづく・・・

花巻市の電話保留音

 先月、花巻市役所の方から連絡があり、当サイトの「歌曲の部屋~着メロ篇~」で公開している「星めぐりの歌」を、花巻市役所の電話保留音として使わせてもらえないかという依頼を受けました。
 自作データを賢治の故郷のお役所で使っていただけるとは、私などにとってはまたとない光栄ですので、もちろん二つ返事で了解をいたしました。

 ということで、去る10月26日から、花巻市役所に電話をすると、チャイムで演奏した「星めぐりの歌」のメロディーが流れるようになっています。私は先週気になって、花巻市役所に電話をして、交換手の女性に「保留音を聴かせていただけませんか?」とお願いしてみたのですが、女性は少し苦笑いしながら(?)も、私の厚かましい願いを快く聞き入れて下さり、1コーラスをかけてくれたのです。
 ちゃんと、流れていました(^_^;)

 そのメロディーは、下記です。もとは着信音用に作ったため、けっこう音量は大きいのでご注意を。

♪ 星めぐりの歌・チャイム(MP3:593KB)

 一昨日には、花巻市から「星めぐりの歌の提供のお礼」として、市長のお手紙とともに、花巻の染物店が製作した「銀河夢小紋ハンカチ」を送って下さいました。
 この場を借りて、心より御礼申し上げます。

銀河夢小紋ハンカチ


 そうそう、花巻市役所と「星めぐりの歌」と言えば、昔から毎日午後7時になると、市役所の屋上から「星めぐりの歌」のメロディーが流されます。これは、広く市内の各所で耳にできるもので、何度も花巻に通っているうちに、私も今やなんとなく懐かしさを感じるようになっています。
 下の録音は、6年前の夏に録ってきたものです。夕暮れ時でカラスの鳴き声がたくさん入っていますが、もうマヂエルの星が輝きだしたのでしょうか。
 花巻の空全体に響きわたる旋律です。

♪ 星めぐりの歌・夕暮れの屋上から(MP3:330KB)


「第4回イーハトーブ・プロジェクトin京都」チラシ表

「第4回イーハトーブ・プロジェクトin京都」チラシ裏

 来たる12月2日(日)に、「第4回イーハトーブ・プロジェクトin京都」を開催することになりました。
 今回は、賢治の歌曲を約20曲も集めた、盛り沢山な「音楽会」です。

 賢治の歌曲というと、「星めぐりの歌」や「精神歌」などは有名で、賢治ファンならこういうメジャーな曲は、折々に耳にすることもあります。しかし、『新 校本宮澤賢治全集』には全部で27曲もの賢治の歌曲が収録されていますが、その全貌をプロの歌唱で体験できる機会となると、私の知るかぎり、これまでは皆無でした。
 以前から賢治の音楽に興味を持ち、このサイトにも「歌曲の部屋」などを作っていた私としては、これまでになかったのなら自分たちで企画できないかと考え、いろいろな方のお力を借りて、このたび実現したものです。

 歌っていただくのは、関西を中心に日本の歌曲をレパートリーに活躍されている、ソプラノの大神田頼子さんです。それから下のチラシ印刷には間に合いませ んでしたが、バリトンの浦恩城利明さんも、趣旨に賛同して賛助出演して下さることになりました。したがって歌は、ソプラノ、バリトンのそれぞれ独唱、一部は二重唱となり、より幅が広がります。
 プログラム内容は、賢治自身の歌曲が中心ですが、後世の作曲家が賢治の詩に曲を付けた佳品も、いくつか取り上げます。この分野の嚆矢というべき山田一雄 による「宮澤賢治・三章」(「高原」「市場帰り」「風の又三郎」)、林光による「岩手軽便鉄道の一月」「あまのがわ」「グランド電柱」、そして近年人気 の、千原英喜「雨ニモマケズ」を、お聴きいただく予定です。

 というような感じで、女声と男声で、また賢治の作と後世作曲家の作を対比させて、いわば立体的に、宮澤賢治の歌の世界をお聴きいただく試みとなります。賢治に関しては近年さまざまなイベントが行われている中でも、これは従来にはなかった企画と存じます。
 会場は、JR京都駅・新幹線ホームのすぐ目の前ですので、お越しいただく上でも便利なところです。
 今回も、入場料としていただいたお金は、最低限の必要経費を除いて、東日本大震災の被災地に義援金として届けさせていただきます。

 また今回も素晴らしいチラシ原画を提供して下さったのは、おなじみの鈴木広美(ガハク)さんです。心より御礼申し上げます。

第4回イーハトーブ・プロジェクト in 京都
歌でつづる宮沢賢治の世界
  
2012年12月2日(日) 午後5時30分開演(午後5時開場)
  龍谷大学アバンティ響都ホールにて(京都駅八条口)
    ソプラノ: 大神田 頼子
    バリトン: 浦恩城 利明 (賛助出演)
    ピアノ: 小林 美智
チケット: 2500円

【チケットの購入・予約方法】
(1) アートステージ567(京都市中京区烏丸夷川西入ル)にて、直接購入できます。
(2) 直接購入できない場合は、振込用紙通信欄に氏名・枚数を明記し、11月22日までに下記口座に代金[2500円×枚数-振込手数料]をお振り込み下さい。
(3) 11月23日以降は、代金は振り込まずにアートステージ567にお電話をして、チケットを予約して下さい。
※(2)(3)の場合、チケットは当日会場でお渡しします。受付で購入者・予約者の名前をお告げ下さい。
【郵便振替口座】 00930-9-282619
           名義人:イーハトーブ・プロジェクトin京都
【お問い合わせ先】 アートステージ567
           (Tel.075-256-3759:12時~18時, 月曜休)

 たくさんの方々のご来場を、お待ち申し上げています!

花巻でうたう賢治の歌

 「賢治の里 花巻でうたう賢治の歌 全国大会2012」から、無事帰ってきました。独唱、合唱、クラシック系からバンド系まで、さまざまな「賢治の歌」が集まり、あっという間の楽しい4時間でした。
 下写真は、「コーラスライオット風」による、「敗れし少年の歌へる」「絆 三部作」。

「コーラスライオット風」による「敗れし少年の歌へる」