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2005年8月31日 「めぐるい」という形容詞

「牧馬地方の春の歌」「浮世絵 北上山地の春」(下書稿(一)) 先日、「牧馬地方の春の歌」の、「たのしくめぐるい春が来た」という箇所について疑問を書いたところ、「新校本全集」編集委員の杉浦静さんから直々にコメントをいただき、私の蒙を啓いて下さいました。
 「めぐるい」というのは、「めぐる」という動詞の誤記ではなくて、確かに賢治が意識的に用いている形容詞でした。この作品の前身である「北上山地の春」逐次形でも、「めぐるく」という形で二度にわたり記入されていますし(左写真)、「牧馬地方の春の歌」に関しては、右写真のように、やはり明らかに「めぐるい」と書かれています。
 また、『春と修羅 第三集』の「」という作品においても、「まるめろの香とめぐるい風に」と、記されています。
 左の草稿写真は、杉浦さんが別便のメールで送って下さった、賢治自筆草稿のコピーの一部です。

 そこであらためて、原子朗著『新宮澤賢治語彙辞典』を引いてみたところ、ちゃんと「めぐるい」という見出しがあって、「意味不明の語だが、花巻地方の方言にもなく、めぐる、めまぐるしい、めくるめく等の語に近い賢治の造語かと思われる」と、説明が付けられていました。
 これまでにも、これは多くの研究者がきちんと検討しておられた事柄だったのですね。

 それにしても、「めぐるい」という聞き慣れない言葉がいったいどういうものなのか、はたして本当に賢治の造語なのか、私もこれを機会にちょっと古語辞典などを調べてみました。すると、「まぐる(目昏る・眩る)」という下二段活用の動詞に行き当たりました。意味は、「目がくらむ」ということです。
 「ま」は、「まぶた」「まなこ」という言葉に残っているように「め(目)」の古形ですから、これはひょっとすると「めぐるい」という形容詞と関係があるのかもしれません。もしそうだとすると、小沢俊郎氏が「新修全集」月報において、これを「まばゆい」の意か、と注しておられるという解釈に近くなります。

 いずれにせよ、懇切なコメントと資料を下さった杉浦静さんには、心から感謝申し上げます。

written by hamagaki : カテゴリー「作品について

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コメント



今まであまり気にしたこともなかったのですが、考慮が必要な語だったのですね。
印象だけで申し訳ないのですが、「めぐるい」(めぐるし)」を、私は「めくるめく」の系列の語で、「まばゆい」という程の意味かと勝手に思っていました。
「まぐる(眩る)」という語は知りませんでしが、やはり「まばゆし=眩し」、「まぶし=眩し」、「めまぐるし=目眩し」の仲間なのでしょうね。

投稿者 つめくさ : 2005年9月 1日 10:14

つめくさ様、いつもフォローをありがとうございます。

 素人のくせに、その後も私自身いろいろと考えてみております。

 動詞「くる(暮る・昏る)」と、形容詞「くらし(暗し・昏し)」は同根ですから、動詞「まぐる(眩る・目昏る)」に対応する言葉として、「まぐらし(目昏し)」という形容詞があったのではないか、というのが一つの仮説。
 もう一つ別の仮説は、「めくら(盲)」は「目暗」から来ていますから、「めくらし(目暗し)」という形容詞があったのではないか、というもの。

 一方、「めくめく」という言葉は、「めくめく(目眩めく)」の訛化したものと思われますが、このように「ら」→「る」という訛化が起こるものだとすれば、同様に「まぐらし」→「まぐるし」、あるいは「めくらし」→「めくるし」という変化が起こる可能性があると、考えてみることができます。
 そうすると、前者ならばあと「ま」→「め」の変化、後者ならば濁音化によって、「めぐるし」という「ク活用」の形容詞が生まれます。これが口語化すると、「めぐるい」となります。(やっとたどり着いた・・・)

 などと、まことに勝手な屁理屈を考えていました。いずれにしても、意味としては、やはり「目がくらむような」という感じに考えておきたいですね。

 それにしても、杉浦さんやつめくささんのおかげで、今度「牧馬地方の春の歌」の歌曲の演奏ファイルを作成する時には、迷うことなく胸を張って、「♪めぐるい春が来た〜」と歌わせることができそうです。
 いろいろ本当にありがとうございました。

投稿者 hamagaki : 2005年9月 1日 15:54

さきほどのコメントに少し補足したいと思います。
「めぐるい」という言葉は、賢治詩以前に聞いたことが無いにもかかわらず、初めて出会ったときも違和感のない表現だったのです。
説明するのはなかなかむずかしいのですが、たとえば
「ゆるくない」とか「まかたしない」とか、「ぬくい」「がっさい」・・・など、おそらく標準語から少しずれた(=聞いたことがありそうな感じはするけれど、そうでもない)形容詞を日常的に使用している者(「東北・北海道圏」と、一括りにできるかどうかわかりませんが)にとって、「めぐるい」という語感は、わりとすんなり受け入れられるもののような気がどうもするのです。
 んー、やはり説明が難しく、かえってややこしくしたかもしれません。(こんな時、北海道では、「いんでないかい」と返答されると、ホッとしたりしてしまいます。)

投稿者 つめくさ : 2005年9月 1日 21:14

つめくさ様、ありがとうございます。

 「めぐるい」という言葉が花巻地方の方言には見あたらない、という話は「新宮澤賢治語彙辞典」に書いてありましたが、「方言か否か」という水準を超えたところで、何かメタレベルの言語感覚があるのかもしれませんね。
 いろいろと勉強になります。

投稿者 hamagaki : 2005年9月 2日 15:46


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