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2005年5月19日 東京(2)

 朝食をすませると、9時すぎにホテルを出て、山手線・地下鉄有楽町線で国会図書館に向かい、 手続きをすませて館の中に入ったのは10時前でした。

国会図書館 賢治が上京するたびに通っていた上野の「帝国図書館(現・国際子ども図書館)」 に収められていた厖大な蔵書は、 1961年にはほぼすべてが国会図書館に移管されました。ですから、現在もここには、 その昔に賢治が手にとって読んだかもしれない本が、ちゃんと保存されているわけです。

 今日おもに調べたかったのは、「詩ノート」に属する「〔黒と白との細胞のあらゆる順列をつくり〕」 という作品の背景となっている知識を、賢治はどんな本から得たのだろうか、ということでした。
 賢治の蔵書の中にあったという『生理学粋』(1927年版)や、『解剖学名彙』(1917年版)というような本をコピーしたり、 作品が最初に書かれた1927年までに出版された生理学や心理学の専門書を、順に読んでみたりしました。
 実際に閲覧を申し込んでみてわかったのですが、これくらい古い本は、実はすべて縮小撮影され「マイクロフィッシュ」 という状態で保存されており、一般の閲覧者はそれを専用の器械で拡大して見るということしかできないのです。したがって、 賢治が読んだかもしれない本たちに、直に触れることはできなかったのは、ちょっと残念でした。

 当初の調査目的の方は、さほど顕著な成果もなかったのものの、偶然に「東京文信社」 から1920年に発行されたガリ版刷りの東大の講義録を見つけたり、William James の名前の当時の読み方について少し気がつくことがあったり、それなりには興味を持って作業をしていました。
 文信社の講義録は、家出した賢治がアルバイトをしていた前年のものでしたが、日本語の文章の中に、 専門用語は筆記体の英語やドイツ語がびっしり混ざっているような文体です。賢治のように英語やドイツ語に十分習熟した人材は、 たしかにこんな原稿のガリ版切りとしては、重宝されただろうと感じました。
 途中で図書館内の喫茶室でカレーを食べ、また解読を続けていましたが、まるで「虫めがね君」みたいに長時間マイクロフィルムを見ていると、 さすがに眼も疲れてきました。
 5時半頃、何点かのコピーを後日郵送してもらうよう依頼して、荷物をまとめて国会図書館を後にしました。

 また永田町駅から有楽町線に乗り、池袋へ向かいました。すでに駅周辺では、お勤めの人の帰宅ラッシュが始まっています。
 池袋駅から東京芸術劇場まで少し歩くと、「こんにゃく座」に電話して予約してあったチケットを受付で受けとり、6時半には開場です。 こぢんまりとしたホールで、いちばん後ろの席でしたが、何人か横の方には林光さんや萩京子さんがすわっておられました。

 午後7時から、第一部の「耕耘部の時計」が20分ほど、10分休憩して、7時半から、「鹿踊りのはじまり」 が50分というプログラムです。
 「耕耘部の時計」では、奥の幕に大きな時計の文字盤を映写し、その前で歌と演技が繰り広げられていきました。農場で働く農夫たちが、 新入りを受け容れていく過程の素朴な暖かさが、ユーモアと諧謔をもって描かれます。 賢治の原作から感じられる微妙な疎外感のようなものはなく、終始おもしろく演じられるドラマでした。

「鹿踊りのはじまり」チラシ 休憩後の「鹿踊りのはじまり」のステージは、 舞台後ろに天井からカーテンのように一面垂らされた多数の紐のようなものが、太陽の光に揺れるすすきに見立てられ、 舞台の空間には何か薄い煙のようなものも漂い、チンダル現象によって照明のライトが何本か交錯する光線に見えていました。
 そこに、「そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあひだから、夕陽は赤くなゝめに苔の野原に注ぎ・・・」という、 私が高校生の頃にいちばん好きだった書き出しのフレーズが、とつぜん合唱によって歌いだされたものですから、 もう冒頭からじーんときてしまいました。
 細かい描写は省きますが、もちろんクライマックスは、6匹の鹿により相次いで歌われる方言短歌の部分です。
 林光さんの音楽は、ヴァイオリン、クラリネット、アコーディオン、パーカッションというたった4人の編成で、つねに躍動的で、 時に抑えられた情感が顔をのぞかせ、不思議な響きで歌や踊りを包みました。歌い手たちは、みんな身体の活き活きとした律動性が印象的でした。

 余韻にひたりながら劇場を出ると、池袋駅南側のガードをくぐり、数人ほどの行列ができていた「無敵家」というラーメン屋さんの前に並んで、 豚骨ラーメンを食べました。博多とは違った太めの麺で、背脂もけっこう載っていますが、一日の疲れを癒やしてくれるようでした。
 このあと、山手線に乗ってホテルに帰りました。

 明日は、朝6時すぎの新幹線に乗り、そのまま京都で仕事に出勤することになります。

written by hamagaki : カテゴリー「賢治紀行

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コメント



国会図書館への旅、わくわくする道行きだったかと思います。舞台のご紹介もありがとうございました。
(かつて池袋のMホテルに宿泊した旅のことを思い出しました。)

投稿者 つめくさ : 2005年5月21日 01:53

つめくさ様、コメントありがとうございました。
二日ともわりあい夜は遅く朝は早い生活だったので、今日東京から出勤して仕事をすると、結構疲れました。
「成果」と言えるほどのものはないのですが、また図書館からコピーが届いたら、この欄でご紹介させていただきます。

投稿者 hamagaki : 2005年5月21日 02:11


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