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2003年8月14日 盛岡から、北へ(2)

 天気が悪いとなんとなく早起きする意欲も失せるのか、予定より朝寝坊してしまいました。窓は、灰白色の曇り空です。

 仕度を整えると盛岡駅に出て、8時12分発「IGRいわて銀河鉄道」に乗りました。これは、去年から在来東北本線の盛岡― 八戸間が第三セクター化された、その岩手県部分に付けられた名称です。何はともあれ、賢治ブランドは今もあちこちで引っぱりだこのようです。
 滝沢駅で銀河鉄道を降りると、今度はタクシーに乗って、春子谷地湿原をめざしました。実は、ここには2年前にも来たのですが、 どうしても見つからない詩碑が一つあったので、リベンジにやって来たのです。今回は、 雫石セミナーの際にこの詩碑を見たという加倉井さんに大体の場所をお聞きして、おおまかな見当をつけて来ました。しかし、 はたして見つかるでしょうか。

 タクシーを降りて県道から湿原の方に入っていくと、2年前にも見た「きみにならびて野にたてば」詩碑を過ぎ、 建設を中断した公園のようなところを横ぎると、やはり道は行き止まりのようになってしまいます。ここでいったん引き返して、 別荘の廃墟らしきものの垣根をまたいで越えてみると、石造りの水盤の裏側に、「林と思想」詩碑がありました。ひとまずほっとして、 2年ごしの対面にシャッターを切りました。詩のテキストと同様、碑のまわりには蕗がたくさん茂っています。
 県道に戻ると、次は小岩井農場行きのバスに乗るために、4kmほど西の相ノ沢温泉をめざして歩きました。だんだん雲は低く垂れ込めてきて、 岩手山は裾野の方しか見えません。鞍掛山の方はまだなんとか全体像を現してくれていて、西の方に進むにしたがってその姿は大きく、 緑は濃くなります。灰色の雲の下で、山は濡れたように黒っぽく、「鞍掛が暗くそして非常に大きく見える」 と賢治が書いた光景は、まさにこんなだったろうかと思います。81年前のこの時も、雨が落ちてくる直前だったわけですね。

 実は事前の計画では、今日は鞍掛山の頂上まで行くつもりだったのでした。残念ながら天候のためにこの登山はあきらめたのですが、 その昔の賢治も雨で途中から引き返したことを思えば、これも何かの縁かもしれません。

 さて、鞍掛山の南側を西へと歩きながら、一時はバスに乗る前に雨に降られてしまうのではないかと覚悟したのですが、 なんとか空は持ちこたえてくれて、10時47分に相ノ沢温泉前停留所からバスに乗りました。
 この鞍掛から小岩井の間の地帯は、「盗森」「黒坂森」「笊森」「狼森」「茄子焼山」「沼森」「鬼越」「燧堀山」など、 賢治作品の舞台となった地名のオンパレードです。渡部芳紀さんがおっしゃるように、まさに 「イーハトーヴ銀座」です。きょろきょろしていると、バスはあっという間に小岩井農場まきば園に着きました。

 お盆休みとあって、まきば園の前はすごい人だかりですが、雨を気にしながらその横は通り過ぎて、資料館裏の賢治詩碑をめざします。 案内に沿って歩いていくと、すぐに詩碑は見つかりました。
 「小岩井農場 パート一」 の中の一節、「すみやかなすみやかな万法流転のなかに/小岩井のきれいな野はらや牧場の標本が/いかにも確かに継起するといふことが/ どんなに新鮮な奇蹟だらう」が刻まれています。向かいあってテキストを読むと、やっぱりじーんと来るものがあります。

 この2003年の夏にも、小岩井の野はらや牧場の標本は、賢治の頃とさして変わらずちゃんとここにあり、 それはまったく何気ないことですが、たしかに「奇蹟」のようにも思えます。隣では高校生くらいの女の子が、 詩碑のテキストを携帯電話に一生懸命入力していました。誰かにメールで送るのでしょうか。
 詩碑を後にして資料館を少し見学した後、まきば園に入って昼ごはんを食べようとしましたが、レストランはすごい行列です。 ここはあきらめて、売店でホットドッグとソフトクリームを買ってベンチで食べました。これも、なかなかおいしかったです。

 天気はまだなんとか持ってくれています。この後どうしようか迷った結果、雫石の方へ行ってみることにしました。
 半年ほど前に、中国の吉林省からメールをいただき、その方のお父さんが、むかし雫石高校の先生をしておられて、 在職中に賢治詩碑を企画して建てられたということを聞きました。山がお好きなお父さんで、 それでこの詩碑には山岳のレリーフが付いていたというわけです。4年ぶりに雫石高校に行ってみると、見事な詩碑は、 変わらずに鎮座していました。4年前には、詩碑がどこにあるのか先生をつかまえて尋ねても、ご存じなくてなかなかわからなかったのですが、 今は「宮澤賢治詩碑」と書かれた立派な案内板もできています。
 明日の「よしゃれ祭り」を控えて華やぐ雫石の町内を歩いて駅に着くと、構内の「賢治文庫・星めぐり館」を少しのぞいて、盛岡へ帰りました。

written by hamagaki : カテゴリー「賢治紀行

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